健康な森の再生と国産杉のブラインド製造
自然へのホスピタリティーと森の中の工場
木製ブラインドメーカーのナニックは、長年放置され、荒れた日本の森を復活させ、循環再生型経済を取り戻す「木使い活動」に意義を感じ賛同してきました。その成果を仕事に活かすべく、栃木県那須塩原市の、長年人の手が入らずに放置され、荒廃していた森林の中に新工場施設を2022年5月に開設しました。「森の中の工場」をコンセプトに自然・生物と共存する健康な森林を蘇らせ、再生していく試みが進行中です。働く社員が四季を感じ、心地よく働きやすい、又地域の人や来訪者が自然の営みを感じ、癒され、喜んでもらえる工場を目指しています。そして、同工場では国産の杉材を有効活用した、杉の羽根を用いたブラインドの生産も開始しました。
増産の必要性と、それまで分散して効率の悪くなっていた工場を、一貫生産のできる広い工場施設への「移転プロジェクト」を2018年にスタートし、国内外の候補地を検討しました。その時、国内各地の工場用地を見て回り感じた事は、我々が求める候補地の多くが工業団地で、それまであったはずの樹木や林が、跡形もなく消えてしまった平坦で広大な土地でした。例えその一区画に工場施設を建設したとしても、自然を感じる事が難しく、この事をその工業団地の担当者に言うと、“新たに植えれば良い…”との事。長年かかって育っていた木々を全て伐採しているという残念さ、喪失感が残りました。
そこで生まれたのが「森の中の工場」プロジェクトです。
最終的に那須高原の麓、標高440mの地に、人の手が入らずに荒廃していた落葉広葉樹林、約5.4ヘクタールを2020年に取得、その20%に当たる約1ヘクタールを工場用地として自ら開発、木造平屋の工場施設を建設しました。残りの80%、約4.4ヘクタールを地元の森林組合の協力を得て、倒木の除去や枯木の伐採、間伐、除伐、遊歩用の小径などの整備が現在進行中です。嬉しいのは社員達の間で、“この草は可愛いから採らないで…、カブトムシの巣になるから倒木した枯木はそのままに…、野鳥やリスに餌をやることの是非”といった会話が盛んに交わされ、自然を思う気持ちが芽生えていることです。手を入れすぎずに自然・生物と共存する健康で豊かな森林づくりの楽しさを皆で共有しています。社員が気持ちよく働くことができ、来訪者にも喜んでもらえる「森の中の工場」づくりはエンドレス・いつまでも続くプロジェクトです。
国産材の有効活用/CO2削減効果
国内で現在販売されているウッドブラインドのほとんど全ての材料が輸入されたバスウッド(シナノキ材)や桐材で、海外からの輸入資材に頼って作られています。輸入材に頼らず、国産材を有効活用してウッドブラインドを作る事がナニックの悲願でした。
杉の学名は「CryptomeriaJaponica」、ラテン語で「日本の隠れた財産」となり、杉は我々が昔から使ってきた身近でポピュラーな日本一の木素材。国土総面積3,799万ヘクタールの2/3に当たる2,500万ヘクタールが森林で、森林率は先進国の中でフィンランドに次ぐ世界第2位、森林の40%が人工林(育成林)で、その約45%に当たる450万ヘクタールが杉の林、これは国土の約12%で、東京都の約2倍の面積に当たります。日本は資源に乏しい国と言われていますが、実はサステナブルな資源を使わずにいるのが現状です。
輸入材に頼らない自給自足に向けて、樹齢50年を超える成熟した杉を使い、新たな苗木を植える事でCO2の吸収が増え、CO2削減の効果も得られます。那須工場の開設で、長年研究を重ねてきた国産杉の羽根を用いたブラインドを完成させることができました。地元の製材所の協力を得て杉の丸太からの皮むき、製材などを行ない、那須工場で薄い板に加工、塗装を行ないブラインドの羽根に仕上げ、最終製品に組み立てるといった一貫生産の仕組みを構築したことで、国産材のブラインドを実現することができました。自然へのホスピタリティー、そして国産材の有効活用は、カーボンニュートラル、SDGsの達成、地方創生にも繋がり、我々がサステナブルな社会へと進んでいく源ともなると考えています。